事業承継において「後継者に娘婿を」という選択は非常に少ないということをご存知ですか?
それは、事業承継で後継者を決定している企業において、娘婿を後継者に選んだ企業が3.0%しかいないという結果からみてもわかります。(中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年)日本政策金融公庫総合研究所)
後継者に娘婿をという選択が少ない理由は何なのか?
解決できる糸口はあるのか?
本記事では、事業承継で娘婿が後継者に選ばれない3つの理由と解決方法についてお話いたします。
大切な会社を安心して事業承継できるように考えるきっかけになれば幸いです。
>>事業承継のタイミングを逃さないために今からできることは?
経営者に娘しかいないときの事業承継は悩ましい
「3人目も女の子だったら里子に出そう!」
これは個人事業をしていた私の実家での話です。
昔から後継者といえば、長男。
女の子は跡継ぎにできないから困る。
業種にもよるのだと思いますが、実家ではそのような考えでした。
結局3人目も女の子でしたが、なんとか里子には出されずに済みました。
日本政策金融公庫総合研究所がおこなっている「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年)」によると、後継者が決まっている企業の後継者候補は次のとおりになっています。
- 長男 45.2%
- 長男以外の男の実子 10.1%
- 長女 8.1%
- 娘婿 3.0%
- 長女以外の女の実子 2.1% など
圧倒的に長男が多いですね。
経営者からしてみれば、後継者は我が息子になってもらいたいという考えは昔から根強いものです。
しかし、それがかなわない場合はもちろんあります。その場合、経営者が後継者として選択できるのは、次の3つの方法です。
- 親族への承継・・・娘、娘婿、孫に引き継ぐこと
- 役員・従業員への承継・・・経営者とともに経営に携わってきた人に引き継ぐこと
- 社外への引継ぎ(M&Aなど)・・・事業の全部、または一部を第三者に引き継ぐこと
たとえ個人事業であっても、事業を継続させようとするならば、どれかを選択しなければなりません。
実家では娘たちが学生のころに、事業承継の決断に迫られるときが来たため、社外への引継ぎを選択しました。
では、娘婿を後継者に迎えた場合はどうなのか?
なぜ、事業承継で娘婿を後継者として選択するのが少ないのか?
事業承継で娘婿が選ばれない3つの理由と解決方法をみていきましょう。
>>事業承継が進まない理由ランキング!早めの事業承継計画で会社を守ろう!

事業承継で娘婿が後継者に選ばれない3つの理由
事業承継で娘婿が選ばれない理由はなんでしょうか?
半数近くの企業が後継者に長男を選んでいる中、「娘婿は直系じゃない」というのが後継者に選ばれない一番の理由です。
では、なぜ直系じゃないといけないのか?
つぎの3つの理由があげられます。
- 内部分裂?古参社員からの反発がおこるかも!
- 贈与か?相続か?多額の税金が発生するかも!
- 乗っ取り?娘と離婚したら会社が奪われるかも!
それでは、これらの理由と解決方法を紹介していきます。
①内部分裂?古参社員からの反発がおこるかも!
事業承継で後継者に娘婿を選ぶと、内部分裂が起こる場合があります。
特に昔から会社を支えてきた古参社員は、経営者に息子がいないことは知っていて、もしかしたら自分たちの中から後継者が選ばれるのでは・・・と思う人もいないとは限りません。
そんな中、娘婿がひょっこり後継者候補として入ってきたら?
反発をしてしまう従業員もいるかもしれません。
対処方法としては、2つ挙げられます。
- 直系である娘が社長になり、娘婿にはサポートにまわってもらう
- 早期の段階で従業員として娘婿を迎え、時間をかけて社内での関係性を築く
普段から陰でサポートする側に徹しておくと、いざというときに後継者として表に出てきても、反発が少なく事業承継がスムーズに進むこともあるでしょう。
まずは、娘婿がいるということを会社全体に広めておくことが大切です。
そのためにも早期に事業承継の準備に取り掛かるのがベストになります。
②贈与か?相続か?多額の税金が発生するかも!
事業承継で後継者に娘婿を選ぶと、多額の税金が発生する可能性があるため注意が必要です。
事業承継というと、自社株式や事業用資産なども承継するのですが、その承継の仕方には2通りあります。
- 生前贈与
- 相続
例えば、自社株式を生前贈与した場合、自社株式の価値が5,000万円あるとしたら、贈与税の控除額110万円を差し引いて税率をかけることになります。
また、自社株式を遺贈した場合、娘婿は相続税が2割加算になります。
【相続税の2割加算】
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含みます。)及び配偶者以外の人である場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
(引用元:相続税額の2割加算|国税庁)
対処方法としては3つ挙げられます。
- 毎年110万円くらい生前贈与する
- 養子縁組して、相続時精算課税制度の2,500万円控除を利用する
- 養子縁組して、相続税の2割加算をなくす
毎年110万円くらい生前贈与するとなると、何年もかかることになりますし、毎年同じ金額を贈与をしていると、税務署からもともと5,000万円贈与する予定で、それを分割しているだけだとみられてしまう可能性もあり、注意が必要です。
その点、養子縁組してしまうと生前贈与では相続時精算課税制度が使えて2,500万円控除が使えますし、相続においても養子縁組することで相続税の2割加算がなくなります。
どういう形で娘婿に事業承継していくのか?
税理士などの専門家を交えてよく話し合う必要があるのかもしれません。
③乗っ取り?娘と離婚したら会社が奪われるかも!
事業承継で後継者に娘婿を選ぶと、万が一娘と離婚した場合、会社を奪われる可能性があります。
どうしてそういうことになるかというと、娘婿に自社株を贈与した後で娘と娘婿が離婚すると、自社株がすべて元娘婿になり、そのあとは元娘婿の親族に承継されていくからです。
対処方法としては1つ挙げられます。
事業承継信託を活用することです。
「信託」とは、「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度です。(一般社団法人 信託協会より)
事業承継信託においても、信託の設定は現経営者の意向にあわせて割と柔軟に設定できるため、例えば、自社株式にある「財産権」(配当や残余財産を受ける権利)と「議決権(経営権)」(会社の経営に関する権利)の2つの権利をわけて承継することも可能です。
信託を取り扱う専門家を交えて自分の想いがつながる選択が必要となります。
>>事業承継における後継者の悩み12選!悩みが軽減する3つの行動とは?

事業承継で娘婿を後継者にするための3つの解決方法
前章でお伝えしたように、事業承継で後継者に娘婿が選ばれない理由は、次の3つがあげられます。
- 内部分裂?古参社員からの反発がおこるかも!
- 贈与か?相続か?多額の税金が発生するかも!
- 乗っ取り?娘と離婚したら会社が奪われるかも!
そして、このように事業承継で後継者に娘婿が選ばれない理由について、解決の糸口になる制度がいくつかあります。
ここでは代表的な3つを紹介します。
- 資金問題解決法!「事業承継・集約・活性化支援資金」
- 相続人(親族)間の問題解決法!「遺留分に関する民法の特例制度」
- 税金問題解決法!「事業承継税制」
それでは、みていきましょう!
①資金問題解決法!「事業承継・集約・活性化支援資金」
日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業承継に伴う費用に関して融資をしてくれる制度です。
対象者は、中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者と共に事業承継計画を策定している方や安定的な経営権の確保等により、事業の承継・集約を行う方など、さまざまな要件がありますので、こちらのサイトをご覧になってご確認ください。
参考サイト:事業承継・集約・活性化支援資金
②相続人(親族)間の問題解決法!「遺留分に関する民法の特例制度」
経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例制度」を活用すると、後継者及び現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、①除外合意と②固定合意をすることができます(両方を組み合わせることも可能です)。
後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので、相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることができます。
自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。
※ 固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。
「遺留分」とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分であり、遺産の半分が「遺留分」となります。遺留分は被相続人(先代経営者)の意思にかかわらず、相続人全員が確保することができるため、他の相続人が過大な財産を取得し、自己の取得分が遺留分よりも少なくなった場合には、自己の遺留分に相当する金額の支払いを請求することができます。
※遺留分は相続人が父母のみ1/3、兄弟姉妹には遺留分がありません。
詳しくは中小企業庁のPDFをご覧ください。
参考サイト:遺留分に関する民法特例のポイント(会社向け) – 中小企業庁(PDF)
③税金問題解決法!「特例事業承継税制」
「事業承継税制」とは、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。
平成30年度税制改正には、税制適用の入り口要件を緩和したり、税制適用後のリスクを軽減したりと、抜本的に拡充されたことにより「特別事業承継税制」(特例事業承継税制の概要|中小企業庁)と呼ばれています。
適用要件の特例承継計画の提出期限が法人版が2023年3月31日、個人版が2024年3月31日となっておりますので、税理士等にご相談ください。
詳しくは国税庁のこちらのサイトをご覧ください。
参考サイト:事業承継税制特集(国税庁)
>>事業承継と相続の違いとは?それぞれのメリットデメリットを知り理解を深めよう!

円滑な事業承継・引継ぎを後押しする支援策(2021年~)
令和3年2月19日に経済産業省から「事業承継支援策について」という円滑な事業承継・引継ぎを後押しする支援策が発表されました。
事業承継前から承継後まで、各ステップに応じた切れ目のない事業承継支援策を10年程度で集中して実施する方針となっております。
これから細かい内容が発表される支援策もありますので、経済産業省のHPなどを見逃さないようにしましょう!
>>事業承継は誰に相談するといい?13の支援機関とお悩み別相談先を紹介!

まとめ|事業承継に娘婿はあり得ない?娘婿にも事業承継しよう!
事業承継で娘婿が後継者に選ばれない3つの理由と解決方法についてお話いたしました。
後継者に娘婿をという選択が少ない理由は何なのか?
解決できる糸口はあるのか?
事業承継で後継者に娘婿が選ばれない理由は、次の3つがあげられます。
- 内部分裂?古参社員からの反発がおこるかも!
- 贈与か?相続か?多額の税金が発生するかも!
- 乗っ取り?娘と離婚したら会社が奪われるかも!
そして、このように事業承継で後継者に娘婿が選ばれない理由について、解決の糸口になる制度がいくつかあります。
その中から3つ紹介します。
- 資金問題解決法!「事業承継・集約・活性化支援資金」
- 相続人(親族)間の問題解決法!「遺留分に関する民法の特例制度」
- 税金問題解決法!「事業承継税制」
他にも、事業承継にまつわる制度がありますので、自社のケースにあった事業承継の制度を利用していきましょう。
大切な会社を安心して事業承継できるように考えるきっかけになれば幸いです。
株式会社マストップは、将来こうなりたいと目指す姿に向かっている経営者と一緒に伴走していくMAS監査事業をおこなっています。
当社が提供する経営計画サポートは、「現状を把握すること」「あるべき姿(目指す姿)を明確にすること」「全社員で共有すること」を促進し、ビジョンの達成、継続的な黒字経営を実現するための課題に取り組むことを支援することです。
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