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そろそろ親から子へ事業承継したい!
お店はそのままだから名義変更するだけだよね?
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いえいえ、それだけではありません。
個人事業主の生前における事業承継は、現経営者である親が廃業し、後継者である子が開業するという流れになります。
単純に名義変更だけしていると、後で余計な手続きや税金が発生するかもしれません。
本記事では、個人事業主の名義変更にかかる税金や注意点などをお伝えします。
個人事業主の名義変更や親から子への事業承継の注意点を知って、自分の合った方法ですすめていきましょう。
個人事業主の名義変更!親から子に事業承継するときの3つの注意点
個人事業主の生前における事業承継で親から子に引き継ぐものは、基本、「事業用資産」と「事業用負債」です。
「事業用資産」と「事業用負債」をそのまま全部引き継いでしまうと、税金が増えて困った!なんてことになりかねません。
何でもかんでも引き継いだり、名義変更したりする必要はありません。
一度、親から子に事業承継するときの注意点を3つ確認していただき、自分の場合、何をするとよいかを考えましょう。
それでは、一つ一つみていきます。
注意点①親から子へ名義変更しただけで贈与?
親から子に事業承継するときの注意点の1つ目は「親から子へ名義変更しただけで贈与」になることです。
え?
名義変更しただけで贈与?
そう思われるでしょう。
例えば、親のお店を時価で子が買い取れば売買取引になりますが、名義変更だけしたとなるとお店を無償で子に提供したことになる為、贈与になるのです。
しかし、お店を無償であげたからと言って必ずしも贈与税が生じるわけではありません。
個人事業主が事業承継するときは「事業用資産」と「事業用負債」を引き継ぎます。
「事業用資産」から「事業用負債」を差し引き、この差額が贈与税の基礎控除である110万円を超えると贈与税が生じます。
まずは、親の「事業用資産」と「事業用負債」がどのくらいあるのか洗い出しましょう。
注意点②名義変更しなくてもいいケースがある?
親から子に事業承継するときの注意点の2つ目は「名義変更しなくてもいいケースがある」ことです。
「事業用資産」と「事業用負債」を洗い出したとき、その差額が110万円を超えていたら、名義変更をしなくていいものがないかどうかみてみましょう。
例えば、土地や建物なども事業用資産になるのですが、わざわざ名義変更せずに親から借りているという形をとってもよいでしょう。
つまり「使用貸借」です。
使用貸借とは、親が事業用不動産を所有したまま、子が無償で借りて事業用として使用し、後に親に返還する契約です。
使用貸借であれば、地代も贈与税もかかりません。また、事業用不動産の固定資産税や修繕費は子の必要経費として計算することが可能です。
そして、親が亡くなった場合に子が事業用不動産を相続すれば、贈与よりも相続のほうが控除額が大きい為、節税に繋がります。
また、使用貸借をする際は契約書などもしっかりそろえておく必要があります。
専門家に相談し、事業承継計画を立ててしっかり対策をしましょう。
注意点③事業承継後の税金は親子ともに発生?
親から子に事業承継するときの注意点の3つ目は「事業承継後の税金は親子ともに発生」する可能性が高いということです。
例えば、親から子へ棚卸資産を時価で売買、または無償で提供となるとかかる税金が変わります。
親(事業廃業後の確定申告) | 子(事業開始後の確定申告) | |
棚卸資産を時価で売買 | 所得税・消費税 | 所得税 |
棚卸資産を無償で提供 | 消費税 | 贈与税・所得税 |
親から子へ棚卸資産を時価で売買した場合は、親が資産を売って収益を得ているため、所得税(譲渡所得)と消費税(2年前の課税売上が1,000万円以上の場合)がかかります。
親から子へ棚卸資産を無償で提供した場合は、無償で提供なので子は贈与税がかかり、親は無償であげたので売買取引を行っていませんが「みなし譲渡」※により、消費税がかかります。
※国税庁「No.6317 個人事業者の自家消費の取扱い」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6317.htm)
また、子は事業開始する為、棚卸資産を売買で得ようが無償で得ようが所得税の計算が必要になります。
>>事業承継に娘婿はあり得ない?!後継者にできない3つの理由と解決方法
名義変更以外にしなければならない手続きは?
個人事業主である親が廃業し、新たに子が個人事業主になる場合に名義変更以外に必要な手続きを親と子でわけて紹介いたします。
個人事業主の親がする手続き
事業承継のために個人事業主を廃業する場合、税務面の手続きは次のとおりです。
管轄 | 手続き書類 | 期限 |
所轄税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業の廃止日から1カ月以内 |
所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 事業を廃止する年の翌年3月15日まで | |
事業廃止届出書 ※消費税の課税事業者の場合 |
事業を廃止後速やかに ※「消費税課税事業者選択不適用届出書」「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」等に事業を廃止した旨を記載して提出した場合は、提出不要 |
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給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 事業の廃止日から1カ月以内 | |
都道府県 | 事業開始(廃止)等申告書 | 事業の廃止の日から10日以内 |
事業承継する子がする手続き
事業承継のために個人事業主を後継者として開業する場合、税務面の手続きは次のとおりです。
管轄 | 手続き書類 | 期限 |
所轄税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業の開始日から1カ月以内 |
青色申告承認申請書 | 青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合には、その事業開始日から2か月以内) | |
青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書 | 青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した人や新たに専従者がいることとなった人は、その開業の日や専従者がいることとなった日から2カ月以内) | |
源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書 | 特に定められていません(原則として、提出した日の翌月に支払う給与等から適用) | |
消費税課税事業者選択届出書 | 免税事業者が課税事業者になることを選択する場合(例えば、事業用資産の購入により消費税の還付を受ける場合等)、新たに事業を開始した場合には、その事業を開始した日の属する課税期間の末日まで | |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 給与等の支払事務を取り扱う事務所等の開設日から1カ月以内に提出 | |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 事業の廃止日から1カ月以内 | |
都道府県 | 事業開始(廃止)等申告書 | 事業の開始の日から10日以内 |
その他、所轄の労働基準監督署やハローワークで労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きや所轄の年金事務所で社会保険に関する廃業と開業の手続きが必要になります。
屋号は変える?変えない?
前経営者である親の屋号を子は変えたほうがいいのでしょうか?
それとも変えないほうがいいのでしょうか?
例えば、親のお店をそのまま引き継いだ場合、いままでのお客様に来ていただくためにも屋号はそのまま引き継いだほうがよいでしょう。
「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する際に、親が使っていた屋号を記載しておけば、そのまま使用できます。
しかし、親のお店を引き継ぎ、リニューアルして違うジャンルのお店にする場合は、新たな屋号を「個人事業の開業・廃業等届出書」に記載して提出すれば特に問題ありません。
>>事業承継と相続の違いとは?それぞれのメリットデメリットを知り理解を深めよう!
個人事業主の親から子へ名義変更したときの税金
個人事業主の親から子へ生前に事業承継による名義変更をするときは、次の3つの税金が生じます。
- 贈与税
- 消費税
- 所得税
一つ一つみていきましょう。
贈与が年間110万円超える場合「贈与税」
前章でもお伝えしたように、個人事業主が事業承継するときは「事業用資産」と「事業用負債」を引き継ぎます。
「事業用資産」から「事業用負債」を差し引き、この差額が110万円以下であれば贈与税は発生しません。
しかし、「事業用資産」から「事業用負債」の差額が110万円を超えた場合は、その差額から贈与税の基礎控除の110万円を引いた額が「課税価格」になり、国税庁の「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」に記載されている贈与税の速算表などによって贈与税が算出されます。
また、特別控除額(限度額:2,500万円)・税率一律20%となる相続時精算課税を選択することも可能です。その場合は、「No.4409 贈与税の計算(相続時精算課税の選択をした場合)」を参考にしましょう。
ただし、相続時精算課税を選択した場合、その後の撤回はできません。次回以降、贈与があったら暦年贈与ではなく、相続時精算課税を選択しなければならないのです。そして相続時には相続時精算課税で贈与された金品やモノを贈与時点の評価額をもって相続財産に加えて相続税を計算します。これまでに相続時精算課税制度で納めた贈与税は相続税から控除されます。
原則、2年前の年間売上高が1000万円以上の場合「消費税」
消費税は、原則、2年前の課税対象となる年間売上高が1000万円以上の場合に納付義務が生じます。
したがって、子が生前の事業承継した場合、原則として開業後2年以内は消費税の納税義務はありません。一方、相続による事業承継の場合は親の2年前の課税対象となる年間売上高をもとに、納税義務が判定されます。子は相続による事業承継1年目から消費税の納税義務が生じることがあります。
今回の話は生前の事業承継の話なので、子には開業2年以内は原則消費税の納税義務がございませんが、2023年10月からスタートした「インボイス制度の概要(国税庁)」との兼ね合いで消費税の課税事業者を選択する必要があるかもしれません。
インボイス制度による消費税の課税事業者の選択については、まず専門家に相談しましょう。
親から子へ生前に事業承継した場合「所得税」
年の途中で、親から子へ生前に事業承継した場合、親も子もともに翌年の3月15日までに確定申告し、所得税の納税が生じます。
では、親がその年の12月31日まで事業をし、子が次の年の1月1日から事業開始した場合はどうでしょうか?
その場合も「事業用資産」と「事業用負債」を引き継ぎをした際に、贈与税や所得税、消費税の申告も必要となる場合がありますので、専門家に相談しましょう。
>>事業承継は誰に相談するといい?13の支援機関とお悩み別相談先を紹介!
贈与税・相続税の納税猶予または免除(個人版事業承継税制)
個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予、又は免除される「個人版事業承継税制(国税庁)」があります。
「個人版事業承継税制」とは、令和元年度税制改正により創設され、事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、平成31年(2019年)1月1日から令和10年(2028年)12月31日までの贈与又は相続等により特定事業用資産を取得した場合、① その青色申告に係る事業の継続等、一定の要件のもと、その特定事業用資産に係る贈与税・相続税の全額の納税が猶予され、② 後継者の死亡等、一定の事由により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納税が免除されるものです。
まとめ|個人事業主の名義変更!親から子へ事業承継計画を立てよう!!
個人事業主の生前における事業承継は、現経営者である親が廃業し、後継者である子が開業するという流れになります。
本記事では、個人事業主の名義変更に伴う注意点や事業承継における税金などをお伝えしてきました。
事業承継を簡単に考えてはいけません。
事業承継におけるトラブルが起こらないように事前の事業承継計画が必要になります。
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