日本では昔から「嫡子が家督を継ぐ」という慣わしがありました。
そのため、同じように「社長の息子が家業を継ぐ」という考えの方はたくさんおられます。
しかしながら、近年、必ずしも「社長の息子が家業を継ぐ」という考えは減ってきており、従業員から後継者を選ぶとか、外部から後継者を連れてくるとか、会社の状況に合わせて事業承継における選択肢の幅が広がりました。
そんな中、後継者としての一歩をなかなか踏み出せないと不安を抱えている社長の息子さんもおられます。
本記事では、事業承継における後継者の代表的な悩みを挙げ、その悩みが軽減する方法を伝えます。
社長と後継者のコミュニケーションを今後も十分にとり、会社経営を良い形でバトンタッチしましょう。
>>事業承継のタイミングを逃さないために今からできることは?
事業承継における後継者の悩みを知っておこう!
昔は「嫡子が家業を継ぐ」という考えがあり、特に長男は小さいころから後継者として育てられてきました。
今では、後継者以外の選択肢が増えてきたため、自ら「家業を継ぐ」という決意ができず、なかなか踏み切れない場合があるのが現状です。
「事業承継における後継者の代表的な悩み12選」を挙げてみました。
【事業承継における後継者の悩み12選】
- 社員がついてきてくれない
- 取引先が受け入れてくれない
- 資金繰りのノウハウがない
- 会社に対しての思い・情熱が持てない
- 会社の中に居場所がない
- 現経営者後継者の間に確執があり上手くいかない
- 現経営者と比較される
- 自分の自信が持てない
- この先の不安しか感じられない
- 将来のビジョンがみえない
- 後継者の考えが社内に浸透しない
- 自分のやりたいことが見つからない
一つ一つ簡単にみていきましょう。
①社員がついてきてくれない
後継者の悩みの1番目は、「社員がついてきてくれない」ということです。
ある日、後継者がいきなり会社に入って「今日から経営者です。」といっても従業員にすんなり受け入れてもらえるはずがありませんよね。
誰しも変化には敏感なものです。
まずは後継者候補として現場や経営のことを学ぶ中で従業員とコミュニケーションをとり、働きぶりや考え方を伝えていくことで信頼を得られるようになっていきます。
後継者というだけで、従業員からの目は厳しいものです。覚悟をもってコツコツと信頼関係を築いていけるようにしていきましょう。
②取引先が受け入れてくれない
後継者の悩みの2番目は、「取引先が受け入れてくれない」ということです。
「①社員がついてきてくれない」と同じく、後継者がいきなり取引先に行って「今日から経営者です。」といってもすぐには受け入れてもらえるはずがないということはご理解いただけると思います。
また、取引先との関係で気を付けなければならないのは、現経営者と後継者で取引条件を変えられる恐れがあること。
現経営者との関係があったからこそ、特別な条件で取引していた部分があるのであって、後継者とはまだ関係性が十分ではないため、厳しい条件を付けられる可能性も否めません。
③資金繰りのノウハウがない
後継者の悩みの3番目は、「資金繰りのノウハウがない」ということです。
後継者がいきなり資金繰りのことを考えるのは難しいものです。
まずは、現経営者と一緒に金融機関を訪問していく中で、現経営者と担当者と話し合い、少しずつ学んでいきましょう。
但し、全く知識のないまま金融機関の担当者と話をしては「全然わかっていない後継者だなぁ。今後この会社は大丈夫なのだろうか?」と逆に不安を与えて評価を落とすことになりかねません。
事前に勉強をしたり、資金繰りに関する新しい情報が入ったら金融機関の担当者にすぐ相談してみるなど、積極的に学ぶことを忘れずに行動していけば、次第に金融機関の担当者からいいサービスや情報提供をいち早くしてもらえる可能性がぐっと上がります。
現経営者と同様、後継者も学ぶ姿勢を忘れずにいれば、資金繰りのノウハウは自然と身についていきます。
④会社に対しての思い・情熱が持てない
後継者の悩みの4番目は、「会社に対しての思い・情熱が持てない」ということです。
それもそのはずです。
この会社をここまで大きくしたのは自分ではなく、今までの経営者です。その会社を承継するということは、他人が一生懸命育てた花をこの先はあなたが枯らさずに育ててねって言われているようなものです。
その前にこの会社がどんなふうに誕生して、どんなふうに成長していったか?困難を乗り越えていったか?という今までの軌跡を知っておくと、今までの思いと情熱を途切れることなく引き継いでいき、後継者自身の思いや情熱を積み重ねていくことが出来るでしょう。
⑤会社の中に居場所がない
後継者の悩みの5番目は、「会社の中に居場所がない」ということです。
後継者というだけで、厳しい目でみられることもあります。
今はまだ、現経営者に代わってみんなを引っ張っていく器がまだないとみられているのかもしれません。
後継者の居場所を確保するために、次期経営者として存在を大きくしていけるよう、社内でコミュニケーションをとって少しずつ打ち解けられるようにしていきましょう。
⑥現経営者と後継者の間に確執があり上手くいかない
後継者の悩みの6番目は、「現経営者と後継者の間に確執があると上手くいかない」ということです。
現経営者と後継者で確執が残ったままだと感情で会社経営を行ってしまうことがあります。後継者にそのようなつもりがなくても、無意識に現経営者のやり方をすべて否定してしまい、自ら経営の選択肢を狭めてしまい残念な方向に向かってしまうかもしれません。
また、確執とまではいかなくても、親子で会話がない場合、現経営者が勝手に「息子は継ぐ気はないんだ」と思い、外部から次期経営者を迎えようとするケースがありました。
そのとき息子さんは親の会社を誰かが継ぐくらいなら自分ががんばると言い出し、後継者として歩み出した例があります。
⑦現経営者と比較される
後継者の悩みの7番目は、「現経営者と比較される」ということです。
「前の経営者はこうだった」
「先代ならこんなことしない」
社内で嫌ってほど聞くことになるでしょう。でもそれは現経営者が築き上げてきたものなので、自分ではどうしようもできません。
⑧自分に自信が持てない
後継者の悩みの8番目は、「自分に自信が持てない」ということです。
後継者になってみたものの・・・
「経営のことがよくわからない」
「従業員がついてきてくれない」
「将来のビジョンがみえない」
このように不安だらけです。
しかし、後継者になるならば、知らないことをそのままにせずに知っていきましょう!
「経営のことがよくわからない」→経営の勉強をする
「従業員がついてきてくれない」→対話を持つ
「将来のビジョンがみえない」→現状把握して課題解決をしていく
いろんな悩みはありますが、基本、勉強と対話と問題解決の道筋が組み立てられれば大抵のことは乗り越えられるでしょう。
⑨この先、不安しか感じられない
後継者の悩みの9番目は、「この先、不安しか感じられない」ということです。
会社のことをよくわからないまま、いずれこの会社の経営者になる、もしくは今日から経営者ですといわれても、何をしていいやら、これからどうすればいいのか、不安でいっぱいになります。
しかし、この会社の後継者になると決断したのはまぎれもなく後継者自身です。
例え、親から後継者になれと言われたからといっても、一度自分で受け入れた以上は、親のせいにしてはいけません。
⑩将来のビジョンがみえない
後継者の悩みの10番目は、「将来のビジョンがみえない」ということです。
この場合、まず会社のことを深く知ることからはじめていくことが良いでしょう。
まだ会社のことがよくわかっていない場合は、これからこの会社をどう導いていいか将来のビジョンがみえないのも当たり前です。
まずは会社の今の状況をよく知ることでこの先の道筋を立てていくことができますので、現状把握をしっかりしていけるようにしていきましょう。
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⑪後継者の考えが社内に浸透しない
後継者の悩みの11番目は、「後継者の考えが社内に浸透しない」ということです。
後継者が自分の考えを持ち、社内に広めて会社を良くしていきたいという姿勢は素晴らしいことです。
しかし、この悩みは、後継者だけでなく、どの会社の経営者も、自分の考えを社内に浸透させることの難しさの壁にぶち当たるものです。
例えば、経営理念の場合、よく会社のいたるところに紙で貼ってあるケースがありますが、それだけでは従業員に浸透しません。
経営理念の場合は、「経営理念や企業の歴史をまとめた動画や冊子を作成する」とか「経営理念を反映させた人事評価制度をつくる」とか、他には会議や研修を開くなど、わかりやすく行動しやすい方法を伝えていくことで、自分の1つ1つの行動が会社の将来に繋がっていくんだということを従業員に認識してもらうことになります。
同じように後継者の考えを社内に浸透させようと思ったら、自分の考えをただ言うのではなく、行動しやすい方法に細分化してわかりやすく伝えていくとよいでしょう。
>>経営理念とは?わかりやすく例を挙げて効果や作り方を説明します!
⑫自分のやりたいことが見つからない
後継者の悩みの12番目は、「自分のやりたいことが見つからない」ということです。
後継者が会社の中で自分のやりたいことが見つからないという場合は、ここまで挙げてきた悩みが少しでも和らいでいくことで、気持ちが前向きになり、少しずつ自分のやりたいことが見えてくることでしょう。
それだけで大きな一歩を踏み出しているので、やりたいことが見つかるように、よく知り、よく学び、多くのことを吸収していきましょう。
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後継者の悩みが軽減する3つの行動
ここまで、「事業承継における後継者の代表的な悩みを12選」を挙げてきました。
事業承継における後継者の悩みは尽きないものですが、今すぐできる後継者の悩みが軽減する行動を3つ紹介します。
【後継者の悩みが軽減する3つの行動】
- 現実を受け入れる
- 感謝の言葉を伝える
- 現状を否定しない
一つ一つ簡単にみていきましょう。
①現実を受け入れる
後継者の悩みが軽減する1番目の行動は、「現実を受け入れる」ということです。
後継者が今まで他の会社で勤務していた場合、自分の会社に後継者として入ると、自分の今までの経験を照らし合わせていろいろ思うことがでてきます。
後継者の悩みはますます尽きなくなるでしょう。
まずは、良し悪しではなく、現実を受け入れ、現状把握することが大切です。
②感謝の言葉を伝える
後継者の悩みが軽減する2番目の行動は、「感謝の言葉を伝える」ということです。
会社は経営者一人で回しているのではなく、社員一人一人の行動によって回っていくものです。
先代が築いた価値観をしっかり引継ぎ、感謝の言葉を伝えることでコミュニケーションを円滑にしていく行動につなげていきましょう。
その行動が、従業員の心を動かすことになるでしょう。
③現状を否定しない
後継者の悩みが軽減する3番目の行動は、「現状を否定しない」ということです。
物事において否定からはじまるとうまく前に進まない場合があります。
会社の現状は、ここに至るまでの経緯があったはずです。そこを見落としたまま現状を否定して物事をすすめると、同じような結果を繰り返す可能性があります。
自分の思い描いた構図を実行に移したいなら、まずは現状を否定しないようにしましょう。
後継者に託される3つの要素
中小企業庁によりますと、事業承継において後継者に託される経営資源は大きく3つの要素から構成されています。
【出典】中小企業庁「経営者のための事業承継マニュアル(PDF)」より作成
経営資源を後継者に託していくためには、後継者教育を進めていく中でコミュニケーションをしっかり取りながら、経営資源を託していくという課題を次の3つに分けて一緒に乗り越えていくことが大切です。
- 人(経営)
- 資産
- 知的資産
①人(経営)
「経営者としての自覚を育てる」
後継者の育成には5年から10年ほどかかることもあります。
経営者、後継者の対話を通じた経営理念の承継や現場から経営まで幅広い経験を通じた後継者教育をする必要があります。
経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育
②資産編
「後継者に引き継ぐ資産を整理する」
経営者の個人資産について会社との関係を整理します。
そして、経営者の個人資産や負債、保証関係も含め、いつどのように後継者に引き継ぐかを検討します。
株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)、許認可
③知的資産編
「会社の見えない強みも承継する」
経営者と従業員の信頼関係も知的資産の一つです。
後継者との対話を通じて、従業員や取引先との信頼関係も引き継いで、円滑に事業承継します。
経営理念、経営者の信用、取引先との人脈、従業員の技術・ノウハウ、顧客情報
特に事業承継の根幹の一つとして自社の経営理念を承継することは会社の理念や経営者の思いを伝承することになります。
そういった意味でも、事業承継を見据えて、経営者が過去から現在までを振り返りながら、経営に対する思い、価値観、信条を再確認し、後継者や従業員と共有しておくと、事業承継後もブレることなく会社の理念や経営者の思いの強さを維持できることでしょう。
>>事業承継の平均年齢は67~70歳!事業承継のタイミングを逃さない方法
ヒストリーマップで過去から現在までを後継者と共有しよう!
事業承継を見据えて、経営者が過去から現在までを振り返りながら、経営に対する思い、価値観、信条を再確認し、後継者や従業員と共有していく方法の一つとして「ヒストリーマップ」を作ってみましょう。
①ボードを用意して、そこに会社創業の年から順に年表になるような感じで過去から現在までの年を書きます。
②経営者、後継者、従業員みんなでこの年にどんなことがあったかポストイットで書いてボードのその年代の箇所に貼っていきます。
【ヒストリーマップの例】
経営者やベテラン従業員は「こんな大事件があったけど乗り越えてきた」とか「研究に研究を重ねて新商品を開発した」とか会社の歴史を後継者や若い従業員に伝えてくれることでしょう。
後継者や若い従業員は自分が生まれたとき会社でこんなことがあったんだとか今売っている商品にこんな思いが詰まっていたんだということを知ることができるでしょう。
後継者や若い従業員は最近のことしか書けませんが、これからの会社を背負っていくのは後継者や若い従業員の方々です。
過去からの思いを未来に繋いでいってくれるはずです。
「ヒストリーマップ」を利用することで、これから何をしていくかをみんなで考えていくいい機会になることでしょう。
まとめ|事業承継における後継者の悩みは少しずつ軽減していこう!
今回は、事業承継における後継者の代表的な悩み12選を挙げ、その悩みが軽減する方法を伝えました。
「事業承継における後継者の代表的な悩み12選」はこちらになります。
【事業承継における後継者の悩み12選】
- 社員がついてきてくれない
- 取引先が受け入れてくれない
- 会社に対しての思い・情熱が持てない
- 資金繰りのノウハウがない
- この先の不安しか感じられない
- 将来のビジョンがみえない
- 会社の中に居場所がない
- 現経営者と後継者の間に確執があり上手くいかない
- 現経営者と比較される
- 自分の自信が持てない
- 後継者の考えが社内に浸透しない
- 自分のやりたいことが見つからない
事業承継における後継者の悩みは尽きないものですね。
続けて「後継者の悩みが軽減する3つの行動」も紹介します。
【後継者の悩みが軽減する3つの行動】
- 現実を受け入れる
- 感謝の言葉を伝える
- 現状を否定しない
すごく簡単そうに見えていても、意外とできていないものです。
事業承継は簡単には進みません。
まずは後継者の悩みを軽減するためにも、この3つの行動を肝に銘じてもらい、進めていくとよいでしょう。
そして、後継者の悩みを軽減する最大の方法は、社長と後継者のコミュニケーションです。
親子で十分に話し合い、会社経営を良い形でバトンタッチしましょう。
株式会社マストップは、将来こうなりたいと目指す姿に向かっている経営者と一緒に伴走していくMAS監査事業をおこなっています。
当社が提供する経営計画サポートは、「現状を把握すること」「あるべき姿(目指す姿)を明確にすること」「全社員で共有すること」を促進し、ビジョンの達成、継続的な黒字経営を実現するための課題に取り組むことを支援することです。
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