「そろそろ引退したほうがいいのかな」
そう感じながらも、毎日会社のために働き続ける社長が、いま全国で増えています。後継者が見つからない、不安だから任せられない、まだ自分が頑張らないと。その気持ちは痛いほどわかります。でも、もし突然、体調を崩してしまったら?そのような場合、会社はどうなるでしょうか。
実は、引退するかどうか以上に大切なのが「引き継ぐ準備」です。
この記事では、高齢社長が引退をためらう理由と、引退しないことで起こり得るリスク、そしていま注目されているM&Aや第三者承継の現実的な選択肢を、わかりやすく解説します。
大切な会社を守るために、今こそ一緒に「引退」について考えてみませんか?
高齢でも引退しない社長が増えている3つの理由
中小企業の社長の高齢化が進む中で、「もうそろそろ引退してもいい年齢なのに、なぜ社長を続けているのか?」と感じる方もいるかもしれません。実際には、多くの高齢の経営者が今も現役で会社を支えています。
では、なぜ高齢でも社長は引退しないのでしょうか?
主な理由は次のとおりです。
- 後継者が見つからないから
- 自分しかできないという責任感があるから
- 経営を生きがいにしているから
ここからは、高齢でも引退しない社長が増えている理由について詳しくみていきましょう。
後継者が見つからないから
「息子や娘が継いでくれるだろう」と考えていた社長も、実際には子どもが家業に興味を持っていなかったり、すでに別の職業で活躍していたりして、後継ぎがいないケースが増えています。社員の中から社長を任せられる人を探すのも簡単ではありません。
そのため、「自分が辞めたら会社が止まってしまう」と考えて、社長を続ける人が多いのです。
自分しかできないという責任感があるから
長年、経営に携わってきた社長の中には、「この仕事は自分にしかできない」と感じている人も少なくありません。会社の数字、人間関係、業界の流れなど、すべてを把握しているからこそ、簡単にバトンタッチするのは不安だという気持ちもあります。
「自分がいなくなったら、社員や取引先が困ってしまうのでは?」という責任感から、引退を先延ばしにすることもあるのです。
経営を生きがいにしているから
経営者にとって、会社を動かすことそのものが「生きがい」になっている場合も多く見られます。毎日、決断をしたり、人と会ったり、事業の未来を考えたりすることが刺激となり、引退後の生活よりもずっと魅力的に感じられるのです。
「まだまだ自分はやれる」「現場にいることで若さを保てる」という思いが、引退をためらわせる理由になっています。
引退が進まないことによる3つのリスク
社長が高齢になっても引退しないことには、前章で紹介したような理由がありますが、その一方で放っておくと「リスク」につながる可能性もあります。
引退が進まないことによるリスクは次のとおりです。
- 経営判断の遅れと健康リスク
- 金融機関や取引先からの信用リスク
- 会社の時間切れ廃業リスク
順にみていきましょう。
経営判断の遅れと健康リスク
年齢を重ねると、どうしても判断力や体力が衰えてしまいます。その結果、経営のスピード感が失われ、「やるべき決断が遅れる」ことがあります。たとえば、時代の変化にすぐ対応できなかったり、後回しにしたことでチャンスを逃してしまったりするのです。
また、社長が突然病気やケガで倒れてしまった場合、代わりをすぐに立てられず、会社が一気に混乱してしまうことも。健康上のリスクは、会社全体にとって存続の危機になるのです。
金融機関や取引先からの信用リスク
「いつまで社長が事業を続けるのか」「この会社は後継者がいるのか」といった不安は、金融機関や取引先の信用にも関わってきます。
たとえば、銀行が「次の社長がいない会社にお金を貸すのは危ない」と判断すれば、融資が難しくなるかもしれません。取引先からも「将来が見えない会社とは長く付き合えない」と思われることがあるかもしれません。つまり、後継者問題は「会社の信頼」に直接影響するのです。
会社の時間切れ廃業リスク
「そのうち後継者を見つけよう」と先送りにしていると、気がついたときにはもう時間が足りない、ということもあります。準備も引き継ぎもできないまま社長が引退や他界してしまえば、会社を続けるのが難しくなります。
その結果、利益が出ていた会社であっても、やむを得ず「廃業」しなければならないケースがあります。このような廃業は会社にとっても、社員やその家族にとっても、とても残念な結末といえるでしょう。
子どもが会社を継がない時代に
一昔前までは、「会社は子どもが継ぐのが当たり前」と考える経営者が多くいました。しかし、今ではその常識が変わっています。親が望んでも、子どもが会社を継がない。あるいは、親のほうが「子どもには継がせたくない」と考えることも。
ここでは、子どもが会社を継がない背景と、今の時代に合った新しい選択肢を見ていきましょう。
「継がせたくない」「継ぎたくない」双方の理由
子どもが継がない理由には、さまざまな背景があります。親の側は、「会社の苦労を子どもに味わわせたくない」「自由な道を歩ませたい」と考えることがあります。一方、子どもの側は、「自分には向いていない」「親の会社に縛られたくない」といった思いを持っていることもあります。
お互いに思いやりがあっても、価値観の違いから「事業承継はしない」という選択になることが増えているのです。
雇われ社長やM&Aという選択肢
子どもが継がない場合、「会社をたたむしかない」と思う方もいますが、実は他にも方法があります。
たとえば、社内の信頼できる社員に経営を任せる「雇われ社長」や、「M&A(会社の売却)」という手段です。M&Aと聞くと、大企業同士の話のように感じるかもしれませんが、最近では中小企業でもごく一般的に行われています。
外部の力を借りて会社を残すことで、社員の雇用や取引先との関係も守ることができるのです。
家族内承継が当たり前ではない時代へ
今や、「家族が継ぐのが当然」という考え方は過去のものになりつつあります。社会全体の変化により、事業承継の形も多様化しています。
大切なのは、「誰が継ぐか」よりも、「どう会社を続けるか」「どう良い形でバトンを渡すか」という視点。時代に合った承継の方法を考えることが、会社の未来を守る第一歩になります。
準備がない会社はどうなる?
「そのうち考えよう」「まだ大丈夫」と先延ばしにして、事業承継や引退の準備をしていない会社は、いざという時にあらゆる問題に直面します。
準備がないことによって起こりうるリスクは次のとおりです。
- 突然の引退・病気で経営が止まるかも
- 後継者不在のまま、やむなく廃業になるかも
- 従業員・取引先からの信用低下するかも
- 金融機関からの評価が下がるかも
- 価値ある事業も「ゼロ」で終わるかも
順にみていきましょう。
突然の引退・病気で経営が止まるかも
誰にでも起こりうる、病気やケガ、そして突然の引退。これらはいつ訪れるかわかりません。
もし社長に万が一のことが起きたとき、後任が決まっておらず、会社の意思決定をする人がいなければ、日々の業務が止まってしまいます。社員もどう動いてよいかわからず、取引先からの問い合わせにも対応できず、大きな混乱を招くことになります。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、元気なうちにこそ、万が一に備えた体制を整えることが大切です。
後継者不在のまま、やむなく廃業になるかも
「誰かが継いでくれるだろう」と考えているうちに、気づけば時間切れ。そんなケースは少なくありません。
後継者がいない、もしくは決まっていないまま社長が退くことになれば、会社を続けたくても「やむを得ず廃業」を選ばざるを得ないことがあります。実際に、中小企業の廃業理由の多くが「後継者不在」です。利益が出ていても、社員がいても、承継の準備がなければ会社は続けられません。
大切な事業を守るために、今から少しずつ準備を始めることが、未来の安心につながります。
従業員・取引先からの信用が低下するかも
後継者の話がまったく見えない会社に対して、従業員や取引先は「この会社、大丈夫かな?」と不安を感じるものです。
従業員にとっては、自分の将来や生活がかかっているため、先が見えない会社よりも、安定した将来のある職場を選びたいと思うのは当然のこと。優秀な人材ほど、早めに転職を考えるかもしれません。
また、取引先も同様に、「先行きが不透明な会社とは、長く取引を続けるのはリスクがある」と判断し、取引を控える可能性もあります。後継者問題を放置しているだけで、信頼がじわじわと失われていくのです。
金融機関からの評価が下がるかも
銀行や信用金庫などの金融機関は、企業の「将来性」を重視して融資の判断をします。
もし後継者が決まっておらず、経営のバトンタッチも不透明な状態であれば、「この会社にお金を貸しても返ってこないかもしれない」とリスク判断されてしまうことがあります。
その結果、資金調達が難しくなり、必要なときにお金を借りられなくなる可能性も。経営の土台をしっかりと整えておくことは、金融機関との信頼関係を築く上でもとても重要です。
価値ある事業も「ゼロ」で終わるかも
長年かけて築いてきた技術やブランド、顧客との信頼関係などは、会社にとって大切な「資産」です。
しかし、引き継ぐ人がいなければ、どれほど価値のある事業でも、廃業と同時にすべてが消えてしまいます。社員の雇用も失われ、取引先との関係も途切れてしまうでしょう。
「まだ間に合う」と思っていたのに、何も準備しないまま時間切れになってしまえば、会社の価値は「ゼロ」になってしまいます。大切な事業を未来につなぐためにも、早めの行動がカギとなります。
増加するM&Aと第三者承継
「子どもが会社を継がない」「信頼できる後継者がいない」そのような時代の中で注目されているのが、「M&A」や「第三者承継」といった新しい形の事業承継です。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は中小企業にとっても現実的で、有効な選択肢になっています。
近年急増するM&Aとは?
M&Aとは、「会社の売買」や「事業の引き継ぎ」のことを意味します。「売却」という言葉に抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、近年では中小企業でもM&Aがごく普通に行われるようになってきました。
特に、社長が高齢になり後継者がいない場合、M&Aによって会社を存続させることが可能になります。相手先の企業に会社や事業を譲ることで、社員の雇用や取引先との関係を守りながら、円満に引退することができるのです。
地域の企業同士のマッチングや専門家の活用
M&Aは、大企業だけの話ではありません。最近では、同じ地域内の中小企業同士で「一緒になって強くなる」ような事例も増えています。
また、「どこに相談すればいいの?」という方のために、商工会議所や地域金融機関、M&Aの専門家がサポートを行っています。自分たちだけで動くのではなく、信頼できる第三者に相談しながら進めることで、良い相手と出会える可能性が高まります。
「売る」ではなく「未来を託す」という考え方
M&Aというと、「お金のために会社を売る」と思われがちですが、実際は「会社の未来を守る」ために行うケースが多いです。
自分が育ててきた事業を、同じ志や価値観を持つ人に引き継いでもらうことで、会社のDNAを次の世代へとつないでいけます。「売る」のではなく、「託す」という発想で考えると、M&Aはとても前向きな選択肢になるのです。
まとめ|引退しない選択ではなく「引き継ぐ準備」を
社長として、長年会社を守り続けてきたことは本当に素晴らしいことです。高齢になっても第一線で経営を続ける姿は、多くの人にとって尊敬の対象でもあります。
だからこそ、「引退」のことも真剣に考えるタイミングが来ているのかもしれません。
突然の病気やトラブル、あるいは周囲の変化によって、会社が立ち止まってしまうリスクは誰にでもあります。その時に慌てないためにも、「引退するかどうか」ではなく、「どう引き継ぐか」を考えることが大切です。
そのための第一歩が「事業承継計画」の準備です。後継者がすぐに見つからなくても、誰に・どう引き継ぐかを整理するだけでも、会社の未来が変わります。
大切な会社、大切な社員を守るために、事業承継の準備は、「いつか」ではなく「今」から始めましょう。
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