「法人化すれば節税になるし、信頼もアップするって聞いたけど、思ってたのと違う。」
そう感じている方は意外と多いのではないでしょうか?
個人事業主から法人へ移行するのは、大きな決断です。でも実際には「節税効果が薄かった」「手続きや事務作業が大変」など、理想と現実のギャップに悩まされている人も少なくありません。
この記事では、法人化して後悔しやすい7つの理由と、その対策をわかりやすく解説します。また、万が一「法人をやめたい」と思ったときに知っておきたい注意点や、そもそも法人化しないという選択肢についても紹介。
これから法人化を検討している方も、すでに法人を設立して不安を感じている方も、後悔しないためのヒントを得られるはずです。あなたの大切な事業を、無理なく、納得のいく形で育てていくために、まずは一緒に確認していきましょう。
法人化で後悔する7つの理由
「節税になるし、信用も上がるというから法人化しよう!」
こんな軽い気持ちで法人化すると、後になって「思っていたのと違った」と後悔する人も少なくありません。
ここでは、実際に多くの人が感じている「法人化で後悔する理由」を7つご紹介します。
理由①節税効果が思ったほど感じられないから
「法人にすれば節税できる」とよく言われますが、実際にはある程度の利益が出ていないと大きな節税効果は得られません。
法人化による節税効果は、課税所得が800万円〜1000万円以上あるかが目安です。
例えば、課税所得が800万円程度であれば、個人と法人では税金が次のようになります。
個人が法人成りした場合・・・8,000,000×15%=1,200,000
節税効果があるといわれている課税所得が800万円であっても、大きな差は出にくく、むしろ社会保険料や顧問料などの固定費がかさみ、逆に手元資金が減ってしまうこともあります。
事前に税理士とシミュレーションを行い、法人化の損益分岐点を把握してから判断することが大切です。
【参考】No.2260 所得税の税率
【参考】No.5759 法人税の税率
理由②設立や維持に想定以上のお金がかかるから
法人をつくるには、登録免許税や定款費用などで約25万円の初期費用がかかります。さらに、設立後も赤字でもかかる法人住民税や、社会保険料、税理士報酬など、一定の出費が発生します。個人事業と比べると、お金の流れに余裕がないと資金繰りが厳しく感じやすいです。
そうならないためにも、法人化前に初年度と2年目以降の収支予測を立てることがポイントです。設立費用は自分で定款を作成するなどで抑えられる場合もあり、株式会社ではなく合同会社(LLC)での法人化も費用削減につながります。
理由③稼いだお金を自由に使えないから
法人のお金は「会社のもの」であり、社長といえど勝手に使うことはできません。個人事業主のときのように事業用の通帳から「ちょっと今月足りないから生活費として使おう」はNGです(個人は事業主勘定で処理されます)。会社からお金を出すには「役員報酬」「経費」「貸付」など、税務上の正当な処理が必要で、自由度が一気に下がります。
このように法人化すると法人と個人のお金を明確に分ける必要があります。プライベートで使う資金は役員報酬として毎月設定し、生活費に充てるのが基本です。法人化する前に「自由に使えるお金が減る」ことを理解しておきましょう。
理由④経理などの事務作業が大幅に増えたから
法人にすると、帳簿のつけ方、決算書の作成、税務申告などが個人事業に比べて格段に複雑になります。会計処理は基本的に法人内部で行う必要があり、自分だけで対応しようとすると、膨大な時間と労力がかかり、本業に集中できなくなるケースも少なくありません。
対策としておすすめなのが、クラウド会計ソフトの導入と、銀行口座やクレジットカードと連携したフィンテックサービスの活用です。これにより、取引データを自動で取り込み、AIが仕訳の候補を提案してくれるため、手入力の手間を大幅に削減できます。
理由⑤経営方針を自分だけで決められないから
個人事業主はすべての意思決定を自分で行えますが、法人化すると、役員や関係者の意見も考慮する必要が出てきます。たとえば、新しい事業に挑戦したくても、他の役員と方針が合わず進められないケースも。個人のときに比べ、自由度やスピード感が失われることもあります。
対策としては、法人化を決める前に「誰がどのように経営に関与するのか」を明確にしておくことが重要です。 経営方針の決定プロセスや役割分担をあらかじめ整理しておくことで、後から「こんなはずじゃなかった」と後悔するリスクを減らすことができます。
理由⑥責任やプレッシャーが増えたから
法人にすると、対外的な信用は上がりますが、その分社会的責任やプレッシャーも大きくなります。特に、従業員を雇ったり、取引先が増えたりすると、「自分一人の問題ではない」重みを感じるようになります。その精神的な負担に悩まされる社長も少なくありません。
責任の重さは避けられませんが、1人社長であれば少人数でのスモールスタートが安心です。そのほか、外部の相談機関や経営者コミュニティとつながって、1人で抱え込まない仕組みを作りましょう。
理由⑦法人をたたむのが簡単ではないから
法人をやめようと思っても、「解散」「清算」などの手続きが必要で、費用も時間もかかります。税務署や法務局への書類提出、未払金の精算、登記変更など、個人事業のように簡単にはいきません。「もう少し続けておけばよかった」と悩む人もいるくらい、法人のたたみ方はハードルが高いのです。
法人化を考える前に、「撤退時の手続きや費用についても調べておく」ことが必要です。
また、いきなり法人化するのではなく、まずは個人事業主でスタートし、様子を見てから法人化する方がリスク軽減につながるでしょう。
法人化して後悔しないための5つの対策
法人化したことで、「こんなはずじゃなかった」と後悔する方も少なくありません。そうならないためには、事前の準備と心構えがとても大切です。
ここでは、法人化してから後悔しないためにやっておきたい5つの対策をご紹介します。
法人化の目的を明確にしておく
まず大切なのは、「なぜ法人化するのか?」という目的をはっきりさせることです。
例えば、
・事業を拡大したいのか
・融資を受けて設備投資を進めたいのか
など、目的によって「法人化が本当に必要かどうか」「今すべきかどうか」は変わってきます。
目的があいまいなまま法人化すると、「思ったほど効果がなかった」「余計にコストがかかった」と後悔することに。法人化を検討する前に、一度立ち止まって「これからどんな事業を築きたいのか」「何を実現したいのか」を明確にしておきましょう。
シミュレーションをしっかり行う
法人化した場合の「収入」「支出」「税金」などを、シミュレーションで具体的に試算してみましょう。
特に、個人事業主との違いが大きいのは「税金」と「社会保険料」です。節税効果があると思って法人化しても、報酬の設定によっては社会保険料が大きな負担になり、結果的に手取りが減ってしまうケースもあります。
簡易的な法人化シミュレーションはネット上でも可能ですが、できれば税理士や専門家に相談して、自分のケースに合った詳細な試算をしてもらうのが安心です。
さらに将来の見通しを具体的に立てたい方は、中期5ヵ年経営計画セミナーの活用がおすすめです。法人化の判断材料がより明確になります。
設立や維持にかかる費用を事前に把握しておく
法人は、設立するだけでも登録免許税や定款費用など、約25万円の初期費用がかかります。さらに、毎年の税務申告や決算処理のために税理士費用が発生したり、赤字でも法人住民税(均等割)を支払う必要があります。
こうしたコストを知らずに法人化してしまうと、「想定外の出費」で経営が苦しくなることも。「設立時にいくらかかるか」「毎年どれだけ維持費が必要か」をしっかり確認して、無理のない資金計画を立てましょう。
法人と個人のお金をしっかり分けて管理する
法人になると、「会社のお金」と「自分のお金」は完全に分けて管理しなければなりません。個人事業主のように「稼いだ分をそのまま使う」というわけにはいかなくなります。
例えば、会社の口座から私的に引き出すと「役員貸付金」という扱いになり、税務上のリスクにもつながります。
後悔しないためには、
・給与や役員報酬という形でお金を受け取る
・日々の出入金をクラウド会計ソフトなどで記録する
など、お金の流れを「会社用」と「個人用」で明確に分ける工夫が大切です。
信頼できる税理士・専門家を早めに見つける
法人化した後の経理・税務は、個人事業とは比べものにならないほど複雑です。日々の会計処理、給与計算、決算書の作成、申告書の作成など、やるべきことが一気に増えます。
そんなときに頼りになるのが、信頼できる税理士や専門家の存在です。特に法人化の初期は、「報酬の決め方」「経費の扱い」「会計ソフトの選び方」など、悩む場面がたくさん出てきます。事前に相談できる専門家がいるだけで、精神的な安心感も大きく変わります。
法人化を検討し始めた段階で、一度相談してみるのがおすすめです。
法人から個人事業主に戻る際の注意点は?
「法人にしてみたけど、やっぱり個人事業に戻りたい」
そう思うこともあるかもしれません。
しかしながら、法人から個人事業主へ戻るのは非常に大変です。いくつかの手続きや注意点を知っておかないと、思わぬトラブルや後悔につながることもあります。
ここでは、個人事業主へ戻る際に気をつけたいポイントを5つご紹介します。
信用力・取引先の信頼が下がる可能性がある
法人という形は、社会的な信用や取引先からの信頼においてプラスに働くことが多いです。
そのため、法人をたたんで個人事業主に戻ると、「経営がうまくいっていないのかな?」「規模を縮小したのかも」と見られてしまうこともあります。
また、これまで法人として契約していた大手の取引先と、個人事業主では契約条件が変わるケースもあります。信頼を維持するためには、個人に戻る理由をしっかり説明し、事業の継続性や安定性を示せるような準備が必要です。
金融機関からの融資が受けにくくなる
法人の方が、金融機関からは評価されやすく、融資にも前向きに対応してもらえる傾向があります。一方、個人事業主になると、審査がより厳しくなり、希望する金額の融資が通りにくくなる可能性があります。
特に、これまで法人名義で融資を受けていた場合は、法人解散と同時に借入の取り扱いも見直されるケースがあるため注意が必要です。もし事業資金の必要が見込まれるなら、事前に金融機関に個人に戻る理由を説明し、融資や資金繰りをしっかり整えておくことがポイントです。
法人の解散・清算手続きが必要
法人を閉じるには、ただ「辞めます」と言うだけでは済みません。登記上の「解散」手続きと、「清算(法人を完全に消す作業)」が必要です。法人の解散・清算の手続きには、次のような流れがあります。
②解散登記を法務局に申請
③清算人の選任
④債務の整理と資産の処分
⑤清算結了登記
さらに、解散時・清算時にはそれぞれ税務申告も必要になるため、最低でも2回の決算・申告が発生します。手間と時間がかかるため、税理士や司法書士に相談しながら進めるのが安心です。
税務署への届出も複数ある
法人をやめて個人事業主に戻る場合、税務署に対して次のような届出が必要です。
・異動事項に関する届出
・清算確定申告書
・清算結了届出書 など
・開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
・青色申告承認申請書(青色申告を希望する場合) など
どれも提出期限があるので、忘れないようにしましょう。スケジュールを整理しながら、もれなく届出を進めることが大切です。
【参照】C1-8 異動事項に関する届出
【参照】No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
再法人化するにはまたコストと手間がかかる
「一度法人をやめて、また必要が出てきたら法人化すればいい」と考える方もいます。たしかにそれは可能ですが、再び法人化するには、再度設立費用や手続きが発生します。
登録免許税や定款費用、設立の手間や時間は一度目と同じ。さらに、前回法人化した理由を見直さないままだと、また同じ失敗を繰り返すことにもなりかねません。
個人事業主に戻る前に、「いま戻ることが本当に最善か?」を見直す時間を持つことで、将来の後悔を防ぐことができるでしょう。
法人化しない選択肢もある!
「法人化したほうがいいのかな?」と考えたとき、多くの人が「節税できる」「信用が上がる」といったメリットに目を向けがちです。しかし、実際には思ったほどの節税効果がなかったり、経理や書類作成の手間が増えたりと、後悔するケースも少なくありません。さらに、一度法人化すると、元に戻すには解散・清算手続きや税務署への届出が必要で、時間もお金もかかります。信用や融資面での影響も避けられないかもしれません。
こうしたリスクを防ぐためにも、法人化するかどうかは「とりあえず」で決めるのではなく、きちんとシミュレーションして判断することが大切です。たとえば中期経営計画を立てて、今後3〜5年の売上見込みや利益、人員体制、必要な設備投資などを具体的に想定してみることで、「法人化したほうが良いタイミングかどうか」が見えてきます。
また、「法人化=成功の証」というイメージがありますが、あえて法人化しないことで、経費や事務負担を抑えて、柔軟に経営を続けている個人事業主もたくさんいます。無理に法人化しなくても、自分のビジネスにとって最適な形を選べば、それが一番の成功ルートなのです。
法人化は「通過点」ではなく「選択肢」の一つ。だからこそ、焦らず、じっくり検討して判断することが、後悔のない経営につながります。
まとめ|法人化で後悔する前に!経営計画でシミュレーションしておこう!!
法人化は一つのステップであり、必ずしも全員にとってベストな選択とは限りません。節税や信用力アップなどのメリットがある一方で、思わぬ出費や手間、自由度の低下に悩まされるケースもあります。後から「やっぱりやめたい」と思っても、法人をたたむには手間もコストもかかります。
だからこそ大切なのは、焦らずにシミュレーションを行い、自分の事業にとって最適なタイミングと形を見極めること。法人化する前に、中期的な経営計画を立てておくこともおすすめです。
この記事が、あなたの大切な選択に少しでも役立てば幸いです。後悔のない経営を、あなた自身のペースで築いていきましょう。
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