個人事業主として頑張ってきたけれど、最近「法人化した方がいいのかな?」と考えることがございませんか?
節税や信用力アップなど、法人化にはたしかに魅力的なメリットがあります。一方で、手続きやコスト、社会保険の負担など、知っておくべきデメリットも少なくありません。
本記事では、「法人化に興味はあるけど、何から調べればいいのかわからない」という方のために、個人事業主から法人化するメリット・デメリット・ベストなタイミング・手続きの流れまでをわかりやすく解説します。
あなたの今の働き方や将来のビジョンにとって、法人化は本当にプラスになるのか?この記事を読めば、その答えがきっと見えてきます。
個人事業主から法人化する7つのメリット
個人で事業をしていて、「そろそろ法人化したほうがいいのかな?」と迷うこともあるでしょう。法人化には、税金や信用面などでたくさんのメリットがあります。
ここでは、個人事業主から法人化を考えるうえで知っておきたい7つのメリットをわかりやすくご紹介します。
メリット①税金が少なくなる場合がある
個人事業主として稼いだ所得には「所得税」がかかりますが、所得税率は累進課税のため、儲けが多くなるほど税率が高くなります。一方、法人の場合は「法人税」がかかりますが、一定の税率で課税されます。
そのため、ある程度の利益が出るようになったら、法人化することで節税になる場合があります。
メリット②経費として認められる範囲が広がる
個人事業では「これは経費になるの?」と判断が難しいこともあります。法人になると、経費として認められる範囲が広がりやすくなります。
例えば、社宅として会社名義で借りた住居や、出張時の手当、生命保険料など、法人ならではの経費処理が可能に。同じ支出でも、法人のほうが「経費になりやすい」ということがあります。
メリット③社会的信用が高まる
法人化すると、「○○株式会社」や「合同会社○○」などの名前になります。これだけで取引先や銀行からの信頼感がアップします。
実際、「法人じゃないと取引できない」という企業もあるほど。また、採用活動でも法人のほうが応募が集まりやすくなることもあります。
メリット④資金調達の選択肢が増える
個人事業主の場合、融資の審査では「個人の信用力」が重視されがちです。一方、法人になると、事業計画や決算書をもとに審査されるため、資金調達の幅が広がります。
さらに、法人化すると銀行や信用金庫などからの信頼も高まり、設備資金や運転資金の借入もしやすくなる傾向があります。
メリット⑤役員報酬を使った節税ができる
法人では、社長である自分に「役員報酬」を支払う形になります。この報酬は会社の経費になるため、法人税を抑えることができます。
受け取った報酬は個人の所得として「所得税」がかかりますが、収入を分散することで全体の税負担を軽くできるケースも。家族を役員にして報酬を分ける方法なども検討できます。
メリット⑥赤字の繰越期間が長い
事業がうまくいかず赤字になった場合、その赤字を翌年以降の黒字と相殺する「繰越欠損金」という制度があります。
個人事業では3年が限度ですが、法人の場合は10年間まで赤字を繰り越すことができます。長期的に見たときに、法人のほうが税務上のメリットが大きくなる場合があります。
メリット⑦事業承継がしやすい
将来的に子どもや社員に事業を引き継ぎたいと考えているなら、法人化しておくとスムーズです。法人であれば、「株式」や「経営権」といった形で明確に権利を引き継ぐことができるため、トラブルを防ぎやすくなります。
個人事業では「事業=個人の資産」という扱いになるため、引き継ぎに時間や手続きがかかることも。将来を見据えるなら、法人化は事業承継の準備にもなります。
個人事業主から法人化する5つのデメリット
「法人化にはメリットが多い」と言われますが、いいことばかりではありません。実際には、法人にすることでお金や手間が増える場面もあります。
ここでは、個人事業主が法人化を考えるうえで知っておきたい5つのデメリットをわかりやすく解説します。
デメリット①設立や維持にお金と手間がかかる
まず大きな違いは、「法人を設立するには初期費用がかかる」という点です。株式会社を作る場合、登記費用や定款認証費用などで25万円前後かかることもあります。
さらに、法人にしたあとは毎年「法人住民税(均等割)」が発生し、利益が出ていなくても最低7万円以上の支払いが必要です。個人事業に比べて、スタートも維持もコストがかかる点はデメリットと言えるでしょう。
デメリット②会計や税務処理が複雑になる
個人事業の確定申告は比較的シンプルですが、法人になると話は別です。法人税、消費税、法人住民税、事業税など、複数の税金の申告が必要になります。
また、法人は「決算書」を作成しなければならず、会計処理も専門的になります。そのため、税理士に依頼するケースが多く、顧問料などのコストも発生します。数字に強くない方には、最初はハードルが高く感じるかもしれません。
デメリット③社会保険の加入が義務になる
法人になると、従業員がいなくても社長自身が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなければならないというルールがあります。
個人事業主のときは国民健康保険・国民年金で済んでいたものが、法人化した後は毎月の社会保険料がかなり高くなることも。役員報酬の金額によっては、社会保険料の負担が大きく感じることがあります。
デメリット④事務作業や手続きが増える
法人にすると、日々の経理や税務処理に加えて、様々な「法的手続き」も必要になります。
例えば、毎年提出が必要な「株主総会議事録」の作成、さらには役員の任期満了に伴う再任登記など、個人事業では経験しない事務作業が発生します。また、社会保険の算定基礎届や労働保険の年度更新など、行政機関への報告・届出も定期的に行う必要もあります。
本業に集中したいと思っていても、事務作業に追われる日が増える可能性があるため、注意しておきましょう。
デメリット⑤資金の出し入れが自由にできなくなる
法人になると個人事業主のときよりも、会社の口座と個人の口座はしっかり分ける必要があります。
社長でも会社のお金を自由に使うことはできず、使うには役員貸付金や役員報酬、経費としての処理が必要になります。この点を曖昧にすると、「私的流用」と見なされるリスクも。きちんとルールに沿った資金管理が求められます。
法人成りに最適なタイミングはいつ?
「法人成りに最適なタイミングはいつなのか?」というように、個人事業主として活動していると、誰もが一度は悩むものです。法人化にはさまざまなメリットがありますが、焦ってタイミングを誤ると、かえって負担が増えてしまうことも。
ここでは、法人化を検討するうえで「最適なタイミング」を判断するための3つの基準をご紹介します。
年間の所得が800万円を超えたとき
一番わかりやすい目安は、「所得(売上−経費などの利益)」が年間800万円を超えたときです。
個人事業主にかかる「所得税」は、儲けが多くなると税率もどんどん上がっていきます。一方で、法人の「法人税」は一定の税率で安定しているため、所得が増えてくると法人化のほうが節税になる可能性が高まります。
例えば、年間所得が800万円の時の税金をみてみましょう。
法人の場合・・・8,000,000×15%=1,200,000
【参考】No.2260 所得税の税率
【参考】No.5759 法人税の税率
年間所得が800万円を超えると、所得税よりも法人税のほうが安くなります。ここで個人事業主から法人化して役員報酬を出し、利益を分散すると、全体の税負担を抑えられる可能性があります。ただし、役員報酬をいくらにするかで所得税や社会保険料なども変わりますし、住民税や事業税などもございますので、一度シミュレーションをしてみるとよいでしょう。
売上が1,000万円を超えたとき
売上が年間1,000万円を超えると、「消費税の課税事業者」になる可能性が出てきます。個人事業主として開業から2年間は消費税の免税事業者として扱われることが多いですが、3年目以降に、原則、その課税期間の基準期間(前々年)における課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。
このタイミングで法人化すれば、要件はありますが、法人として再び「2年間の免税期間」を得られる可能性があります。つまり、消費税の納税を後ろ倒しにできるというメリットが生まれるのです。ただし、インボイス制度のこともありますので、税務のプロと相談しながら、節税の観点でタイミングを見極めるのがポイントです。
事業を拡大したいとき
取引先が増えたり、人を雇いたいと考えたり、「事業をもう一段ステップアップさせたい」と感じたときも、法人化を検討する良いタイミングです。法人化すると、社会的な信用が高まり、資金調達がしやすくなり、優秀な人材を採用しやすくなるといった「次の成長ステージ」に必要な環境が整いやすくなります。
また、法人化すれば「法人名義の口座」「法人名義の契約」も可能になるため、ビジネスのスケールアップにもつながります。「そろそろ自分一人の限界を感じている」という方は、ぜひこのタイミングで法人化を視野に入れてみてください。
個人事業主から法人化に必要な5ステップ
「法人化したいけど、何から始めたらいいの?」そう感じている方も多いのではないでしょうか。法人化の手続きは初めての方にとってはハードルが高く見えるかもしれませんが、流れを一つひとつ確認すれば、意外とシンプルです。
ここでは、個人事業主が会社を設立するために必要な5つのステップを、わかりやすく解説します。
STEP①会社の基本事項を決める
まず最初に行うのが、「会社の設計図」を決める作業です。次のような基本情報を整理します。
・本店所在地(会社の住所)
・事業目的(どんな事業をするか)
・資本金の金額
・代表者(社長)や役員の構成
このステップでは、今後の登記や契約、銀行口座開設などの基礎になる情報を決めることになります。内容変更は可能ですが、再度手続き等が必要になるため、初期の段階でなるべく慎重に考えておくとよいでしょう。
STEP②定款を作成して公証役場で認証する
次に「定款(ていかん)」という、会社のルールブックを作成します。この書類には、会社の目的・商号・所在地・発行株式数・決算月などが記載されます。
作成した定款は、公証役場で「認証」を受ける必要があります。これは「この会社のルールは問題ありませんよ」と国にお墨付きをもらうようなイメージです。なお、この手続きには、手数料5万円+収入印紙代(紙定款の場合は4万円)がかかります。
※最近は、収入印紙が不要になる「電子定款」も広がっています。
STEP③資本金を払い込む
定款の認証が終わったら、次は会社の運営資金である「資本金」を発起人の個人口座に払い込みます。ここで重要なのが、法人名義の通帳はまだ作れないため「法人名義の口座」ではなく、「設立する人の個人口座」に振込するという点です。通帳に「資本金の入金履歴」が残ることが確認資料となるため、記録が残る通帳を用意しておきましょう。
なお、資本金の金額に決まりはありませんが、目安としては最低でも10万円〜100万円程度が多いようです。事業の規模や信用力を考慮して設定しましょう。
STEP④法務局に登記申請する
いよいよ会社設立のメインイベントである「登記」です。会社を設立したことを国に正式に登録することで、法人格が与えられます(=この日が会社の誕生日になります)。
・登記申請書
・定款
・払込証明書
・役員の印鑑証明書
・登記用の印鑑届出書 など
登記の書類は会社の所在地を管轄する法務局に提出します。申請から通常1週間ほどで完了します。
STEP⑤税務署や役所に必要な届出をする
会社が設立されたら、今度は税務署や役所への届出を行います。代表的なものは次のとおりです。
・都道府県税事務所、市町村役場への設立届出
・年金事務所への健康保険・厚生年金加入手続き
・労働基準監督署やハローワークへの労働保険関係の届出(従業員を雇う場合)
これらの手続きは期限があるものもあるため、設立後すぐに取りかかることをおすすめします。不安な場合は、税理士や社労士など専門家のサポートを受けるとスムーズです。
まとめ|個人事業主から法人化するメリットとデメリットを知って最適な道を選ぼう!
個人事業主から法人化することには、節税や信用力の向上といった多くのメリットがある一方で、手間やコスト、社会保険の負担などのデメリットもあります。
大切なのは、自分の事業規模や将来の展望に合わせて、ベストなタイミングで判断するためにシミュレーションを必ずすること。
この記事を通して、法人化の基本的な流れや注意点が少しでもクリアになれば幸いです。「今がその時かも」と感じたら、まずは専門家に相談して、無理のないステップで一歩を踏み出してみてください。
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