「そろそろ法人化したほうがいいのでは?」
個人事業主として順調にやってきた人ほど、一度はそんな悩みを抱えるもの。しかし、焦って法人化すると「思ったよりお金も手間もかかって大変!」と後悔するケースも少なくありません。
実は、すべての人にとって法人化が正解とは限らないのです。そのため、「あえて法人化しない」という選択があなたにとってベストな場合もあります。
本記事では、あえて法人化しない7つの理由から、法人化のメリット、後悔しないための判断ポイントまで、わかりやすくお伝えします。
迷いや不安をスッキリ解消して、自分にぴったりの選択をできるよう、ぜひ最後まで読んでみてください!
あえて法人化しない7つの理由
「売上が伸びてきたから法人化したほうがいい?」
「法人化したら節税になるかも」
そんなふうに思っている方も多いかもしれません。でも、実はあえて法人化しないという選択肢も立派な戦略のひとつです。
ここでは、あえて法人化をしない理由としてよく挙げられる7つの項目をわかりやすく解説していきます。
理由①法人設立に初期費用と手間がかかるから
法人をつくるには、ただ「会社を始めます」と言うだけでは済みません。定款作成、公証人役場での認証、法務局での登記などやることがたくさんあります。さらに、法人設立にかかる費用は株式会社で約25万円になります。
・定款の認証手数料 1.5~5万円
・定款の謄本手数料 約2,000円
・定款に貼付する収入印紙代 4万円
・印鑑作成費用 1万円~
・専門家への依頼料 数万円
個人で気軽に始められる「開業届」とは手間もお金もまったく違います。
このように、法人設立に初期費用と手間がかかるから、あえて法人化しないという選択をされる人がおられます。
理由②法人維持にも毎年コストが発生するから
法人は、つくって終わりではありません。毎年の運営にもお金がかかります。たとえ赤字でも「法人住民税の均等割(最低7万円〜)」は必ず払わなければなりません。そのほか、税理士への顧問料や会計ソフト、社会保険料など、毎月・毎年の固定費がかさみます。
法人は個人事業主に比べて、どうしてもランニングコストが高くなりがちです。
このように、思っている以上に維持コストがかかるため、あえて法人化を見送る人も少なくありません。
理由③社会保険料の負担が重くなるから
法人化すると、社長ひとりだけの会社であっても、社会保険(健康保険+厚生年金)への加入が義務になります。社会保険料は思っているよりも負担が大きく、例えば役員報酬が月30万円だとすると、会社と個人合わせて月額9万円近くになります。
今まで国民健康保険や国民年金を支払っていた人にとっては、場合によっては大きな負担増になります。
このように、保険料負担の重さがネックとなり、法人化をためらう人も多いです。
理由④会計や申告の手続きが煩雑になるから
法人は、お金の管理もかなり厳しく見られます。毎年の決算書の作成や、法人税の申告は、かなり専門的な知識が必要です。そのため、多くの人が税理士に依頼することになりますが、税理士依頼にも費用がかかります。
個人事業なら、ある程度は自分で申告できていた人も、法人化した途端に難易度がグッと上がるのです。
このように、会計や申告の手続きの煩雑さに不安を感じて、法人化を避ける人も一定数おられます。
理由⑤役員報酬は途中で自由に変更できないから
法人では「自分への給料=役員報酬」を決めて、毎月決まった金額を会社からもらうことになります。この金額は原則として1年の途中で変更できません。
例えば、「最近売上が落ちたから報酬を減らしたい」「もっと利益が出たから増やしたい」と思っても、自由には動かすことはできません。柔軟にお金を使いたい人には、やや不便といえます。
このような柔軟性のなさがデメリットに感じられ、法人化に踏み切れない理由になることもあります。
理由⑥資金の使い道が制限されるから
個人事業では、自分の口座=事業の口座であるため、個人と事業の区分がしっかりされていれば、お金の出し入れも自由です。
しかし、法人は別です。会社の口座=会社のお金であり、たとえ自分の会社でも私的に使うことはできません。
このように、資金の使い道が制限される点を懸念して、個人事業のままでいる選択をする人もいます。
理由⑦廃業手続きが個人よりも複雑だから
もし「やっぱりやめたい」と思ったとき、法人は廃業手続きも簡単にはいきません。解散の登記、清算人の選任、清算結了の手続き、税務署への届出など、やるべきことが山積みです。
個人事業なら、税務署に「廃業届」を出すだけで済むのに比べて、法人をたたむには時間もお金もかかります。
このように、廃業手続きの複雑さを考えると、最初から法人化を避けたいと考える人が出てくるのかもしれません。
法人化のメリットをしっかり理解しておこう!
あえて法人化しない理由を挙げましたが、法人化にはメリットもいくつかあります。
法人化のメリットを理解していないと「もっと早く法人化すればよかった」と後悔することにもなりかねません。
ここでは、法人化することで得られる主なメリットを紹介します。
社会的信用が高まる
法人になると、社会からの見られ方がガラッと変わります。
例えば、「取引先との契約がスムーズになる」「銀行からの融資(借入)がしやすくなる」「企業間取引(BtoB)で選ばれやすくなる」といった効果が期待できます。
個人事業だと慎重に見られるケースもありますが、法人だと「きちんとした組織なんだな」と信用度がグッと上がるからです。
所得分散や経費計上による節税が可能
法人になると、税金対策(節税)の幅がぐっと広がります。
例えば、配偶者や家族を従業員にして給料を支払えば、所得を分散できるので、全体として税金が安くなることもあります。
また、法人だと認められる経費の範囲も広く、役員社宅制度(家賃の一部を会社負担にできる)や、生命保険料の損金算入、退職金制度の利用など、個人では難しい節税策が使えるようになります。
有限責任によりリスクを最小限にできる
個人事業主の場合、借金や損害賠償などが発生すると、自分の財産すべてで責任を負うことになります。いわゆる「無限責任」です。
一方、法人では、原則として出資額(資本金)以上の責任は負いません。これを「有限責任」といいます。
つまり、たとえ会社が倒産しても、社長個人の財産すべてを差し押さえられるリスクは、小さくできるのです。ビジネスにチャレンジしやすくなるのも、大きなメリットといえるでしょう。
人材の採用や組織化がしやすくなる
「個人事業のままだと、なかなか良い人材が集まらない」そんな悩みを持つ人も少なくありません。
法人化すれば、求人票に「株式会社」や「合同会社」の名前を載せることができ、求職者からの信頼感がアップします。
また、労働条件や給与体系なども法人基準で整えられるので、組織化やチーム作りがぐっとやりやすくなります。
赤字の繰り越しや決算期の自由がある
法人は、赤字を出してしまった場合でも、最大10年間繰り越して、将来の黒字と差し引きできる繰越欠損金という制度があります。
個人事業主だと、赤字の繰り越しは原則3年のみ。長期的な事業計画を考えると、この差はとても大きいです。
さらに、法人は自分で決算月を自由に決められるので、繁忙期・閑散期を考慮した税金対策や申告業務もしやすくなります。
法人化に向かない人
法人化にはたしかにたくさんのメリットがありますが、「誰にとっても良い選択」とは限りません。
ここでは、「法人化しないほうがいいかもしれない」という人の特徴を紹介します。あてはまる部分がないか、ぜひチェックしてみてくださいね。
年間所得がそこまで多くない
法人化による節税効果が本格的に出てくるのは、年間所得が800万円〜1,000万円以上といわれています。
もし、現時点で所得がそこまで多くない場合、法人にしたとしても手間ばかり増えたり、費用の負担がかえって重くなったりといったことになりかねません。
まずは個人事業主のまま、所得を安定させてから法人化を検討してもまったく遅くありません。
事業拡大の予定がない
「今の規模で十分満足している」「これ以上スタッフを増やす予定はない」など、そもそも事業を大きくするつもりがないなら、無理に法人化する必要はないかもしれません。
法人化には、役員報酬の決定や社会保険の加入、決算報告書の作成など、いろいろな手間がついてきます。
事業拡大の必要がなければ、個人事業主のままのほうがシンプルで身軽に動けるでしょう。
ライフスタイルや自由度を重視したい人
法人にすると、どうしても税務署への届け出や決算・申告作業、役員会議など、形式的な手続きが必要になります。
一方、個人事業主は自由度が高く、働くペースも収入の使い方も、かなり融通が利きます。
例えば、旅をしながら仕事をしたい、休みたいときに休みたい、できるだけシンプルに生きたいなどという人にとっては、法人化するとかえって窮屈に感じる可能性も。
「自由に、自分らしく働きたい」という想いが強い人は、あえて法人化せず個人事業を続けるのも立派な選択肢です。
法人化するかどうかの判断ポイント
法人化は、思い立ったらすぐにすべきものではありません。「今が法人化のタイミングかどうか」を見極めることがとても大切です。
ここでは、法人化を検討すべき3つの具体的な目安をご紹介します!
年間売上1,000万円超が一つの目安
まずひとつ目のポイントは、年間の売上が1,000万円を超えたかどうかです。
なぜかというと、売上1,000万円を超えると、消費税の納税義務が発生したり、節税対策の必要性が増したりといった状況になるからです。
個人事業主のままだと、利益が出てもなかなか節税できず、「税金ばかり増えていく」 という状態になりがち。
売上が1,000万円を超えたあたりから、「このまま個人で続けるか?法人化するか?」を真剣に考え始めるのがおすすめです。
課税所得が800万円~1,000万円以上になったら要検討
売上だけでなく、実際に手元に残る利益から算出される課税所得も大きな判断材料です。
目安としては、課税所得が800万円~1,000万円以上になったら法人化を検討すべきと言われています。
なぜなら、個人事業主の場合、課税所得が増えると税率がぐんと上がるからです。
(※所得税は超過累進課税といって、所得が増えるほど税率も高くなる仕組みです。)
課税所得が800万円~1,000万円以上になると、個人で払い続けるより、法人にして役員報酬や経費をうまく活用したほうが税金をグッと抑えられる可能性が高くなります。
しかし、すべての人が節税になるとは限りません。実際に税金をおさえられるかどうかはシミュレーションする必要があります。
従業員や外注スタッフが増えたタイミング
最後に、法人化するかどうかの判断ポイントは、一緒に働く人が増えてきたときです。
例えば、正社員を雇ったり、業務委託スタッフが何人もいたり、チームで動くことが増えたりなど、こんな状況になってきたら、法人化を検討するとよいでしょう。
法人にすると、「社会的信用が上がり、人材採用がしやすくなる」「雇用契約や社会保険などがスムーズに対応できる」「業務管理や経理処理も効率的になる」など、組織運営の面で多くのメリットが出てきます。
「これからもっとチームで仕事を広げていきたい!」という人には、法人化が強い味方になるでしょう。
後悔しないために!法人化を検討する前にやるべきこと
法人化は人生やビジネスにとって大きな決断。「思いつきで法人にしてみたら、逆に負担が増えて後悔」なんてことも珍しくありません。
そんな失敗を防ぐために、法人化を考え始めたら必ずやっておきたい3つのことをご紹介します。
法人化の目的を明確にする
まず最初にやるべきなのは、「なぜ法人化したいのか」目的をはっきりさせることです。
例えば、「節税を狙いたいのか」「信用力を高めて仕事を取りやすくしたいのか」「チームで大きな事業に育てたいのか」など、目的が違えば、法人化すべきタイミングややり方も変わってきます。
なんとなく「周りが法人化してるから」ではなく、「自分にとっての法人化のメリットは何か?」をしっかり言葉にしてみましょう。
この一手間が、後々の後悔を減らしてくれます。
シミュレーションで費用と税額を比較する
次に大事なのが、実際にお金のシミュレーションをしてみることです。
法人化すると、「設立時に数十万円のコストがかかる」「毎年法人住民税(最低でも約7万円)が必要」「社会保険加入で負担増(個人負担と会社負担あり)」など、目に見える支出が増えるケースもあります。
また、節税できるといっても、本当に税金が安くなるかどうかは、利益額や経費の使い方によって違います。
個人のまま続けた場合と、法人化した場合とで、「どれくらい手取りが変わるのか」「支出や税金にどんな違いが出るのか」を具体的な数字で比較してみましょう。
これをしておくと、「思ったよりメリットがなかった!」という失敗を防ぐことができます。
専門家に早めに相談する
最後におすすめしたいのが、税理士さんや行政書士さんなどの専門家に早めに相談することです。
法人化には、税金だけでなく、会社設立手続きや社会保険加入手続き、銀行口座の開設や助成金や融資の利用など、さまざまな専門知識が必要になります。
ネット情報だけで判断すると、「こんなはずじゃなかった!」と後から後悔することに。
専門家に相談すれば、自分の事業やライフプランに合った最適なアドバイスがもらえます。
無料相談を受け付けている事務所も多いので、できるだけ早めにプロに話を聞いておくのが成功への近道です!
まとめ|あえて法人化しない選択もアリ!自分に合った選択をしよう!!
法人化にはたしかに多くのメリットがありますが、すべての人にとって最適な選択肢とは限りません。事業の規模、将来の展望、ライフスタイルなどによって、あえて法人化しない方が良いケースもあります。
大切なのは、法人化する・しないを感覚だけで決めるのではなく、目的を明確にし、費用や手間、リスクまでしっかり比較検討することです。「法人化=正解」という思い込みにとらわれず、自分に合った道を選びましょう。
この記事が、あなたにとって納得のいく判断をするためのヒントになれば幸いです。
迷ったときは一人で抱え込まず、専門家に相談することも検討しましょう。
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