「この人事評価、何のためにやっているんだろう?」
そんな疑問を、評価のたびに感じてはいませんか?
多くの企業が導入している人事評価制度。しかし、現場では「評価に時間ばかりかかる」「結果が処遇に結びつかない」「優秀な人材が辞めていく」といった声が上がることも少なくありません。実際に、形だけの人事評価が社員のモチベーションを下げ、生産性の低下や離職につながるケースも増えています。
本記事では、なぜ人事評価が「時間の無駄」とされてしまうのか、その原因と企業が直面しやすい課題を解説。さらに、時代に合った評価制度の改善策や見直しのポイントまで、経営視点でわかりやすく紹介します。人材戦略と経営を結びつけるヒントとして、ぜひ最後までご覧ください。
人事評価制度とは?
人事評価制度とは、従業員の仕事の成果や取り組み姿勢などを企業が評価し、処遇や育成に反映させる仕組みのことです。一般的に、上司や人事担当者が年に1〜2回、従業員の働きぶりを評価し、それをもとに給与・昇進・教育機会などが決められます。
たとえば、「売上の数字を達成したか」「チームでの協力ができていたか」「新しいスキルを身につけたか」など、さまざまな視点から評価されます。
人事評価制度には、主に以下の3つの目的があります。
・人材育成:評価を通じて強みや課題を明確にし、スキルアップやキャリア形成の支援に活用されます。
・モチベーションの向上:努力が正しく評価されることで、従業員のやる気やエンゲージメントが高まります。
会社が成長していくためには、「誰がどんな働きをしているのか」を正しく把握し、それにふさわしい評価を行うことが重要です。もし評価がなければ、頑張っている人とそうでない人の区別がつかず、「頑張っても意味がない」と感じる社員が増えてしまう恐れがあります。
人事評価が「時間の無駄」とされる5つの理由
人事評価制度は本来、組織を強くし、従業員のやる気を高めるための仕組みです。しかし、現場では「正直、評価なんて時間の無駄では?」と感じている人も少なくありません。
多くの企業で問題視されている「人事評価が時間の無駄」とされる理由は次のとおりです。
- 膨大な時間と労力がかかるから
- 評価基準が曖昧で納得感がないから
- フィードバックが形だけになっているから
- 評価結果が業績や処遇に反映されないから
- 実態と評価期間がズレるから
順にみていきましょう。
膨大な時間と労力がかかるから
人事評価は、評価する側にもされる側にも大きな負担がかかります。
たとえば、評価者は各メンバーの実績を振り返り、評価シートを作成し、面談を実施する必要があります。評価対象が多ければ、それだけ時間と手間も増大します。一方、評価される側も、自分の成果をまとめたり、面談準備をしたりと対応に追われます。
こうした一連のプロセスに見合った効果が感じられない場合、「やる意味あるの?」と感じてしまうのも無理はありません。
評価基準が曖昧で納得感がないから
「なぜこの評価になったのか分からない」と感じたことはありませんか?評価の基準があいまいなまま運用されていると、評価結果に納得できない社員が増えていきます。
たとえば、「主体性がある」「協調性が高い」といった評価項目があっても、それをどう判断するかは評価者の感覚に委ねられていることが多く、客観性に欠けてしまうケースも珍しくありません。
結果として、努力しても正しく評価されるという実感が得られず、制度そのものに対する不信感につながります。
フィードバックが形だけになっているから
評価面談はフィードバックの場でもありますが、実際には「ただ評価結果を伝えるだけ」で終わってしまうことも多く見られます。
本来は、従業員が「次は何をどう頑張れば良いか」を理解し、成長に繋げるための機会であるべきです。しかし、具体性のないフィードバックや、形式的な面談では、学びも得られず、やる気も起きません。
結果的に「時間ばかりかかって、何も残らない」という印象を持たれてしまいます。
評価結果が業績や処遇に反映されないから
「高く評価されたのに昇給も昇格もなかった」
そんな経験をすると、社員は人事評価に対する信頼を失います。評価結果が給与、昇進、キャリアパスなどの具体的な処遇に反映されなければ、人事評価制度はただのイベントになってしまいます。
どれだけ時間をかけて評価しても、社員が「評価が自分に返ってこない」と感じれば、モチベーションも下がり、制度は形骸化します。
実態と評価期間がズレるから
人事評価の多くは、半年または1年ごとに行われますが、人事評価が実態と合っていないケースもあります。
たとえば、プロジェクト型の働き方が主流の企業では、評価タイミングと成果が出る時期がズレてしまい、実際の努力が正しく反映されないという問題が起こります。
時間が空きすぎることで、評価者が記憶に残った出来事だけを重視してしまう「記憶バイアス」が発生し、結果として不公平な評価になりがちです。
時代遅れの人事評価が優秀な人材を失う3つの問題点
人事評価制度は、企業の成長を支える大切な仕組みです。
しかし、制度が時代に合っていなかったり、社員の期待に応えられなかったりすると、むしろ優秀な人材の離職を引き起こす原因にもなりかねません。
時代遅れの人事評価が優秀な人材を失う3つの問題点は次のとおりです。
- 評価制度に失望して成長意欲を失う
- 公平性への不信から離職につながる
- 評価が画一的で個人の強みが活かされない
順にみていきましょう。
評価制度に失望して成長意欲を失う
評価制度は本来、社員が「もっと頑張ろう」と思えるように設計されるべきです。
ところが、努力や成果が正しく評価されなかったり、評価内容に納得がいかなかったりすると、「頑張っても意味がない」と感じてしまいます。
特に意欲的な社員ほど、評価に期待しています。だからこそ、制度に失望すると一気に成長意欲を失い、パフォーマンスが落ちる、または転職を考えることにつながるのです。
公平性への不信から離職につながる
評価に不公平感があると、職場への信頼が一気に崩れます。
たとえば、「評価者によって基準がバラバラ」「上司のお気に入りが優遇されている」といった不満が蓄積されると、社員のモチベーションは大きく低下します。
優秀な人ほど、「この会社では正しく評価されない」と判断し、より公平な評価制度を求めて転職を決断するケースも少なくありません。人事評価が原因で人材が流出してしまうのは、企業にとって大きな損失です。
評価が画一的で個人の強みが活かされない
多様な人材が活躍する時代において、画一的な評価制度では社員の個性や強みを十分に引き出すことができません。
たとえば、「営業成績」や「リーダーシップ」など限られた項目だけで評価していると、裏方でチームを支えるタイプの人材が正当に評価されない可能性があります。
個人の強みを理解し、それに合った成長機会を提供することが、現代の人事評価には求められています。それができない企業では、「ここでは自分の力が活かせない」と感じた社員が、他社へ流れていくリスクが高まります。
人事評価制度が機能不全に陥る3つの課題
人事評価制度は、社員のやる気や組織の生産性を高めるための重要な仕組みです。
しかし、制度の運用が適切でないと、逆に評価への不満や不信感を生み出し、機能不全に陥るリスクがあります。
ここでは、人事評価制度がうまく機能しなくなる3つの課題について解説します。
評価基準の不明確さが納得感を損なう
評価基準の不明確だと、社員は「何をどう頑張れば評価されるのか」が分からなくなります。
たとえば、「協調性」や「貢献度」など抽象的な言葉だけで評価されると、基準があいまいで納得しにくく、不満や誤解を生みやすくなります。
納得感のある評価制度を構築するためには、評価項目や基準を明文化し、具体的に説明することが不可欠です。そうすることで、評価を受ける側も「何が期待されているのか」を理解し、成長につなげやすくなります。
評価者の主観が入りやすく不公平が生まれる
評価者の見方や感情によって、評価が左右されるケースは少なくありません。
たとえば、性格の合う部下には甘く、厳しい態度の部下には評価が厳しくなるなど、主観的な判断が入り込むと、評価制度への信頼が失われます。
このような不公平感は、チーム内の雰囲気や協力関係にも悪影響を及ぼします。主観の偏りを防ぐためには、評価者に対する研修や、複数人による評価(多面評価)の導入が有効です。
評価が人材育成や処遇と結びつかず形骸化する
せっかく評価を行っても、それが昇進・昇給・育成などの具体的なアクションにつながらなければ、制度は「形だけのイベント」と化してしまいます。社員も、「評価されても何も変わらない」と感じれば、やがて評価そのものに意味を見出せなくなります。
評価結果は、人材育成の指針や処遇の判断材料として活用されてこそ価値があります。
形だけの評価にならないためには、評価と人事戦略の連動を明確に設計し、フィードバックの質を高めることが重要です。
現代の組織で注目されている3つの評価制度
従来の人事評価制度に課題を感じる企業が増えているなかで、より納得感や成長促進につながる評価制度への見直しが求められています。
現代の組織で注目されている評価制度は次のとおりです。
- 360度評価
- 目標管理制度(MBO)
- コンピテンシー評価
ここからは、現代の組織で注目されている3つの評価制度を紹介し、それぞれの特徴と導入メリットをわかりやすく解説します。
360度評価
360度評価とは、評価対象者を上司だけでなく、部下や同僚、時には取引先など複数の関係者が評価する制度です。従来のように上司だけの一方向の評価ではなく、さまざまな視点からの評価が集まるため、より客観的かつ多面的な評価が実現できます。
360度評価の大きなメリットは、上司の主観に偏らず、納得感のあるフィードバックを受けやすいこと。また、他者からの評価を通じて、自身の強みや改善点を認識できるため、人材育成やチーム全体の意識向上にもつながります。
ただし、注意点もあります。評価する側の本音が出にくくなったり、人間関係に影響を及ぼす可能性があるため、匿名性の確保や、評価結果の使い方(処遇との切り離し)については十分に検討する必要があります。
導入時には、目的を明確にし、社内での理解を深めながら進めることが成功のカギです。
目標管理制度(MBO)
目標管理制度(MBO:Management by Objectives)とは、従業員自身やチームが設定した目標に対して、どの程度達成できたかを評価する制度です。上司が一方的に評価するのではなく、あらかじめ共有された目標に基づいて評価を行うため、納得感や透明性が高いのが特徴です。
目標管理制度のメリットは、目標が明確になることで、従業員のモチベーションや自主性が高まりやすい点です。また、成果を数値などの客観的な指標で把握できるため、評価者の主観が入りにくく、公平な評価が可能になります。
一方で、評価されやすい目標ばかりを選んでしまったり、逆に難易度が高すぎて形骸化してしまうケースもあります。目標は上司とすり合わせながら設定し、定期的に進捗を確認するプロセスが重要です。
適切に運用すれば、組織全体の目標と個人の行動が一致し、生産性の向上にもつながる制度です。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、優れた成果を出す人に共通する「行動特性(=コンピテンシー)」を基準にして従業員を評価する制度です。単に結果だけを見るのではなく、「どのような考え方や行動によって成果を上げたのか」に注目するのが大きな特徴です。
コンピテンシー評価では、「企業にとって理想的な人物像」や「実際に成果を出している社員」などをモデルとして分析し、評価基準を設定します。そのため、何をすれば評価されるのかが明確になり、従業員にとっても改善すべき行動が具体的に見えやすくなります。人材育成にもつながりやすく、納得感のある評価を実現できます。
一方で、評価基準を作るには時間と労力が必要です。どの行動特性が自社にとって重要なのかを見極め、的確に定義する必要があります。
うまく導入すれば、企業文化や価値観に沿った行動を促しながら、組織全体のパフォーマンス向上を目指せる評価制度です。
評価制度を見直す際に押さえておくべき3つのポイント
人事評価制度を改善しても、うまく機能しなければ意味がありません。
制度の導入・見直しにあたっては、「現場に根づく仕組み」にするための準備と運用体制がとても重要です。
ここでは、見直しの際に企業として意識しておきたい3つのポイントを紹介します。
導入前の準備と社内への周知
どんなに優れた評価制度でも、導入前の準備が不十分だと、現場では混乱や反発が起きがちです。そのためまず大切なのは、目的や背景、期待する効果を社内にしっかり共有することです。
「なぜ新しい制度を導入するのか」「何が変わるのか」などを明確に伝えることで、社員の理解と協力を得やすくなります。また、実際の運用に向けて、評価フローやツールの整備、マニュアルの作成も準備しておきましょう。
評価者への教育・研修の実施
評価制度をうまく機能させるためには、評価者(上司やリーダー)のスキル向上が欠かせません。評価基準をどう解釈するか、部下にどうフィードバックするかなど、評価者の対応次第で社員の受け取り方が大きく変わります。
そのため、評価者向けに研修やロールプレイなどを実施し、評価の基準や進め方、伝え方をしっかり習得してもらうことが重要です。
また、フィードバックの練習を通じて、部下との信頼関係を築くスキルも養えます。
継続的な改善とフィードバックの活用
評価制度は一度作って終わりではなく、運用しながら改善を重ねていくことが大切です。現場の声をもとに、制度の内容や評価項目を見直し、時代や組織の変化に対応できるよう調整しましょう。
また、評価結果をただ数値化して終わらせるのではなく、本人へのフィードバックを重視して「育成につながる評価」にすることも忘れてはいけません。制度を継続的に磨きながら、社員の成長を支える仕組みにしていくことが成功のカギです。
まとめ|時間を無駄にしない人事評価をしよう!
人事評価制度は、本来組織の成長と社員のモチベーション向上を支える重要な仕組みです。
しかし現状、多くの企業では「時間の無駄」と感じられてしまう評価の形骸化や、納得感の低い運用が課題となっています。
今回ご紹介したように
- 膨大な時間と労力がかかる
- 評価基準が曖昧で納得感がない
- フィードバックが形だけになっている
- 評価結果が業績や処遇に反映されない
- 実態と評価期間がズレる
といった問題は、すべて放置すれば企業の競争力を損なう要因となります。
だからこそ、人事評価制度は「やめるか続けるか」ではなく、見直して価値あるものに再設計することが重要です。360度評価やMBO、コンピテンシー評価などの手法を活用し、自社に合った制度を取り入れることで、評価は「育成」「定着」「採用」すべてに貢献する武器になります。
さらに、評価制度の見直しは単なる人事施策にとどまらず、経営計画の一部として明確に行動計画に落とし込むべき重要課題です。戦略的な人材マネジメントを進める上でも、経営層がリーダーシップをとって制度改善に取り組むことが求められます。
人事評価を「時間の無駄」にするのではなく、「人と組織を成長させる時間」に変えていきましょう。
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